「私が信用してるのは、自分だけだよ」
相手のことを自分、と呼ぶ癖のある少女は笑っていった
[恋愛対象:]
卒業式が迫る冬のある日
受験はまだ終わってないし
心穏やかな日ではなかった。
「・・・いきなり何?」
高校三年間すごしてきたものの、気の利いたセリフのひとつもいえる人間にすらなれなかった。
「和む。しゃべってると楽しい」
端的に答えて、彼女は歩く
歩調を合わせる癖がお互い出来ていて、だから、必然に並んで歩く
それから会話もなく、廊下を渡って階段を下りる
息苦しくない沈黙?
ちょっともったいない。
せっかくの時間なのに。そう思えば思うほど、なんか焦る。
「・・・それは告白?」
「何の?」
うぬぼれてみたけど失敗だった
「告白?そうかもね」
彼女は笑っている
「しゃべってると楽しい。だから、卒業するのが惜しい」
「・・・なんで?」
彼女はめったに見ない僕を見た
見ないのはおそらく嫌いだからとかそういうんじゃなくて、見なくても何か、わかるからだ。
そしてそれは僕も同じ。
「わかる何か」が何なのかと聞かれても困るけれど
久々にちゃんと彼女の顔を見た気がした
「卒業したらこんな風に喋れなくなるよね」
「・・・あぁ」
当たり前すぎて忘れていた
僕たちは男女であって
一緒に居ればカップルだと思われる
カップルなんて安い言葉じゃないんだ、この関係
ダチという言葉に託すのには重すぎて、恋人なんて言葉ほど大層なもんじゃなくて
親友とかというのとも違うけど、言葉に託すとしたらコレが一番似てる。
だけどやっぱり言葉にならなくて。確かなのは、僕は君が大切で、君も多分、僕が大切なんだということ。
そしてこの関係は、それだけで十分なのだということ。
僕は、僕たちの間に言葉はいらない。と自惚れてる。
君もそうだといい。僕一人の思い込みだったら寂しいから。
「・・・あぁ、確かに」
「まあ、自分と私はいつまでもダチだけど?」
試すように僕を見るから、イジワルしたくなって僕は二マリ、と笑う
「どうかな」
「うん、どうかな」
彼女は先ほどいった言葉をあっさりひっくりかえして前を向く。階段を降りきった先にも続く廊下が、永遠になればいいと思う。
僕はこの時間に恋している。
どんなにゆっくり歩いても10分も掛からない、教室から下駄箱までの数分間。
もしくは、誰も居ない教室で喋り続ける、穏やかな放課後。
そのおしゃべりの相手が、君だという条件を愛している。
君もそうだと嬉しい。
君も、この時間に恋していてほしい。君とのおしゃべりの相手が僕だという条件を愛していて欲しい。
僕だけこの時間に恋しているのは、とても悔しいし、惜しい。
「いつまで喋っていられるかな」
「きっと卒業までだよ」
そんな冷たい人間じゃないと言いかけて、でもやっぱりそうかもしれないと思った。
「人と人との関係なんて、そんなもんだよ」
彼女はマフラーを巻きなおして、一歩校舎から出る。部活動の声が騒がしい。
「一期一会ってやつですか」
「うん」
一回外に出て、また下駄箱への階段を下りながら彼女はいう
「でも、この出会いは一番の出会いなのかも」
僕はまた黙り込んで、彼女はさっさと靴を履き替えた
沈黙が苦にならないという意味をはじめて知ったのは君と仲良くなってから。
そういうのって、恋人同士のイイ関係なんだ、ってこの前君が喋ってた。
だからそうなのかなとも思った。けど、不思議
この言葉を君に言っても、君は多分うんとは言わない。
それを僕もわかってる。
僕は悩んで、この言葉を軽く言ってみた。
「つきあう?」
君はやっぱり、あっさり答えた
「いや」
「・・・せめて一瞬考えようよ」
君は地上への階段を上りきって、僕の顔を見る。二度目だ。
「考えた。たくさんたくさん考えて、私は言わない、って決めた。言われたらこう答えようって決めてた」
君は口を開いた
「私はこの時間に恋してるの。しばらくは、他の誰にも、このキモチはあげない。自分にもね」
僕のことを自分、と呼ぶ彼女の癖。初めは不思議でたまらなかったけど、いまは
「・・・僕も」
もうすぐその癖が聴けない毎日が来ることが、泣きたくなるほど悲しい。
「この時間を愛してる」
君はコチラを向かなかった。
変わりにヘンに元気な声でこういった
「よかった。片思いじゃなくて」
僕たちは悟ってた。
お互い、お互いに振られてるってこと、何も言わなくてもわかってた。
僕たちは恋してた。
過ぎていって、どんなに頑張っても手に残らないモノに恋しているって
そのことに二人とも気付いてた
どうしようもなく切なくて、時間が過ぎれば過ぎるほどフラれるのをわかっていて
それでも強制的に手放さなくてはいけない日まで、僕らは恋し続けるんだろう
だから僕は思ってる。
この関係は、友達でも恋人でもカップルでも親友でもない、ただ言葉にならない関係だって。
だけど多分、一生の中で得がたい、大切な絆だったって。
「出会えてよかった」
口の中で呟いて、僕は彼女に言う
「僕も、一番自分を信頼してる」
彼女の口癖を真似した。
彼女の顔は見ないことに決めて、僕たちは反対のほうへ足を向ける
「ばいばい」
「ばいばい」
また明日。
いつか、明日がない今日が来る。
いつか、この足が再び向き合わない明日が来る。
せめてそれまでは
あとがき
どもー。壱です。構想・作成ともに一時間ちょっと。 割とノンフィクション。かな。
恋愛じゃないけど友達なんていう言葉じゃ足りない。
言葉にならないほど好きだけど、愛するとは違う。
そんなナニカってあると思います
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