空を見上げて:Novels
この手を離して
行き着く先など
[ 僕らには見えないけれど ]
「卒業かぁ」
誰かが呟く。しんみりとした空気が教室に満ちた
「寂しいような、早く大学行っちゃったいような」
「微妙だね」
会話を聞いて、彼は教室を見渡す
見慣れたクラスメイトとも、もう合わないかもしれないのだ
「―――一期一会ってこういうことのことを言うんだろな」
彼が呟き、一緒にしゃべっていた少年もうなずき返す
「長い一期一会だったね」
「・・・ほんと」
少年は知っている。彼が人一倍寂しがりで、でも、プライドが高いから、そういうことは絶対に口にしないこと。
「寂しい?」
少年が聞き返すと、彼は微笑む
「もちろん」
「でも、笑ってる」
「・・・寂しがってたら、こいつらに合わせる顔がないだろ?」
彼は、再びざわつき始めたクラスを見て言った
そのざわつきは、どこかでもうすぐに迫った別れを気にしている、明るすぎるざわつき。
受験をしている最中のものですら、その明るすぎるざわつきに身を潜めて、終わろうとしている生活を名残惜しんでいる。
「みんな、未来に向かってる。向かおうとして―――向かいたいからこそ、この時間を捨てるんだ」
「捨てる?」
彼は窓から、青空を見上げて言う
「そう、捨てるんだ。すっぱりきっぱり、まるでそんなものは手にしてなかったと言うような」
「それこそ寂しいじゃないか」
少年は口を尖らせる。彼は微笑む
「そうでもしないと、先に進めないだろう。だってここは、心地がよすぎるから」
「ずっとここで、俺はいいと思うけど」
少年は同い年の彼を少し見上げて、どうしてこんなに違うのだろうとふとおもった。
自分は子どもっぽくて、彼は、酷く大人っぽい。
「先に進んで、進んで進んで、いつかふっとこのクラスを思いだすんだ。そのための、なんていうかな、オアシスっつうか」
彼が少し黙って、そう、と口を開きなおした
「心のよりどころ。俺には、こんなに大切で大切でたまらない、親友達が居るんだぜ、っていう」
先に進めば進むほど、辛いことばかりで、でもだからこそ
「ココに留まってちゃ、世界は小さいままだろ?」
彼がにぃといたずらっけに笑って、少年は心の中で呟く
寂しくなんかないんだ。だってこいつに取ってここは
「ここは旅に出る、出発点」
僕らは旅に出る。この場所から、みんな違う一歩を踏み出して
怖くなんてない。寂しくなんてない。
だって、どこかで、必ず誰かが頑張っているから。
見えないどこかで、頑張っていると知っているから。
だから僕らは、手を離して、この時間を捨てる。
胸を張って、再び、親友たちに会えるように
「・・・詐欺師」
少年がつぶやくと、彼はにっと笑って言った
「誉め言葉さ」
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